2014年5月4日日曜日

ツバキの種分化と送粉シンドローム

今日はM1のM君が研究対象としている「ツバキ」について紹介します。

一般に「ツバキ」というとヤブツバキCamellia japonicaのことを示すかと思います。このヤブツバキは日本の沿岸部を中心に広く分布している普通種ですが、冬期に赤い大きな花を咲かせ、鳥によって花粉を媒介してもらうという、日本では非常に特徴的な送粉シンドローム(送粉様式に特化した花形質)を持っています。しかしながら、日本海側のヤブツバキは冬ではなく春先に咲き、鳥類による送粉行動はあまり観察できません。そして日本海側山地には、過去の気候変動で多雪地に取り残され、分化したのではないかというユキツバキ(種Camellia rusticanaとしたり亜種Camellia japonica L. subsp. rusticana としたり等、分類の見解は分かれる)が生育しており、これらは虫によって花粉媒介が行われているようです。

ヤブツバキとユキツバキの典型的な違いについては、過去のボスのブログをご覧ください。
http://sadoken.blogspot.jp/2012/04/blog-post_09.html

これらの花形質の違いはやはり送粉者(花粉媒介者)との相互関係に起因するかと思います。
こちらは佐渡のヤブツバキ。3月末-4月上旬をピークに咲きます。
鳥媒介に特化した赤い大きな筒型の花弁。
さらに雄蕊の間には空間があるような感じで(中心の雄蕊が短い)、
合着した雄蕊の根基にたっぷり蜜がたまっています。
これもまた鳥媒介に特化した形なのでしょう。
つぎに佐渡では小佐渡の尾根付近に出てくるユキツバキ。
4月末から5月上旬をピークに開花します。
花は大きく開閉し上向きなものが多く、雄蕊もばらけています。
花粉や蜜には多くのハエの仲間が集まっています(他に甲虫やアリ等)。
葯は大きく(花糸が細い?)、花弁も色が薄いものなど変異幅が大きそうです。
蜜はヤブツバキより少なめ。
最後に太平洋側のヤブツバキ。
下の花弁についているのはメジロの爪痕。
これが訪花の証拠にもなります。
ちなみにヤブツバキは太平洋側と日本海側に遺伝的構造があるのではなく、九州地方と関東地方を両極として混じり合うような遺伝的構造があるそうです↓
「広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン(PDF) - 森林総合研究所」
http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/chukiseika/documents/2nd-chukiseika20.pdf

同じツバキでも送粉者によって花形質が異なるようですが、両種の詳細について定量的にまとめられている学術論文はほぼありません。赤い大きな花を咲かせるという鳥に対する適応形質が、春咲きで鳥の訪花がほとんどみられないユキツバキでも残っているのは面白いですね。形・花色・におい・花粉媒介者・フェノロジー・遺伝的構造など、これからM君と中心に研究を進めていく予定です。ご期待ください!

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